出版社内容情報
これは問答か、謗法(ルビ:ほうぼう)か。平安時代初期、天台宗の最澄と法相宗の徳一が交わした批判の応酬は、仏教史上まれにみる規模におよぶ。相容れない立場の二人が、五年間にわたる濃密な対話を続けたのはなぜだったのか。彼らは何をどのように語り合ったのか。「真実」を求める論争を解きほぐして描く、仏教史の新たな見取り図。
内容説明
これは問答か、謗法か。いまから千二百年前、天台宗の最澄と法相宗の徳一が交わした批判の応酬は、質量ともに仏教史上まれにみる規模におよぶ。相容れない二人が、五年にわたる濃密な対話を続けたのはなぜか。彼らは何をどのように語りあったのか。真理を求める論争を解きほぐして描く、仏教史の新たな見取り図。
目次
第1章 奈良仏教界の個性―徳一と最澄
第2章 論争の起源と結末―二人はどう出会ったか
第3章 釈迦の不在をいかに克服するか―教相判釈という哲学
第4章 真理の在り処をめぐる角逐
第5章 歴史を書くということ
終章 論争の光芒―仏教にとって論争とは
著者等紹介
師茂樹[モロシゲキ]
1972年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業、東洋大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(文化交渉学、関西大学)。現在‐花園大学文学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ろくせい@やまもとかねよし
145
長く日本で研究される仏説。仏教論理学である因明の体現を感じ、学問としての仏教に触れた。釈迦の仏説を発展させる態度でその真理を追求する大乗仏教。その代表的経典「法華経」が示す生きとし生けるものがブッダになれる教え「一乗真実説」。これを支持する天台宗、そして最澄。「法華経」を方便ととらえブッダになれる3つの主な素質を認める「三乗真実説」。これを支持する法相宗、そして徳一。平安初期当時メジャーだった法相宗に、新規参入する天台宗を背景に、最澄と徳一の文献から「三一権実」を通し、彼らの研究に対する姿勢を考察する。2021/12/03
ネギっ子gen
32
平安初期、天台宗の最澄と法相宗の徳一が交わした批判の応酬は、仏教史上稀にみる規模に。「真理」を求め、相容れない立場の相手と、いかに対話をするか。“宗論”を素材に描く、仏教史の新たな見方。このテーマは、巻末の参考文献一覧にある中公新書の『徳一と最澄』でも、かなり以前読んだことを想い起こす――。「あとがき」に、<唯識思想は昔から人気があるが、なぜか法相宗の思想は人気がない/因明はもっと人気がない>と。確かにそうですね。この著者、花園大学の先生で、「お地蔵様」の研究もされているようだ。講義を聴講したいなぁ~。⇒2021/12/27
崩紫サロメ
29
9世紀初頭に行われた天台宗の最澄と法相宗の徳一の間で行われた5年に渡る論争を扱う。生きとし生けるものは皆ブッダになれるのか否か、というところが論点であるが、本書は現代における異宗教間対話を視野に入れ、彼らがどのように論争をしたかを取り上げる。当時は問答こそが哲学的思考の主要な形態であり、著者が研究の中心とする因明(知識を生み出す原因)という学問のあり方を通して、二人の論争を読み解く。因明については日本で研究している学者が極めて少ないということも含め、新たに知ったことが多かった。2021/11/16
俊介
25
平安時代初期、その後の日本仏教のあり方を決定づける論争が起こった。日本天台宗の開祖・最澄vs.法相宗の僧・徳一。仏教史の本ではよく言及されるが、これを一冊の本にしたのは初めて読んだ。この論争が重要なのは、最大の論点が、「誰しも皆『仏』になれる可能性を秘めているのか、一部の者しかなれないのか」だったからだ。とても大切な問いだ。もちろん、「誰でも秘めてるよ」と主張した最澄が勝利したからこそ、広く庶民にまで受け入れられた日本仏教の歴史がある。本書では、実はより複雑だった論点などが明らかにされ、深く理解できる。2022/03/08
Satoshi
17
漫画の「阿吽」が面白かったので、平安初期の仏教を勉強しようと思い、本書を購入した。有名な仏教論争である最澄徳一の対決については、旧来勢力である徳一が新しい仏教を伝来した最澄にいちゃもんをつけただけと思っていたが、論争のテーマは玄奘法師が天竺から仏典を持ち帰った頃から始まる仏教最大の課題だった。後に浄土宗が生まれた日本では最澄の一乗思想が結果的に勝ったのでは思うが、これも私の理解が足りないだけかもしれない。とにかく用語が難解で読むのに時間がかかった。2021/10/26