出版社内容情報
中国スペシャリストとして活躍し、日中提携を夢見た男たち。なぜ彼らが、泥沼の戦争へと日本を導くことになったのか。真相を追う。解説_五百旗頭真
戸部良一[トベリョウイチ]
内容説明
中国スペシャリストとして、戦前の対中外交を率いた陸軍「支那通」。その代表的人物・佐々木到一は、孫文はじめ中国国民党の要人と深い親交を結び、第二次北伐に際しては国民革命軍にも従軍した。しかし、その後、支那事変(日中戦争)では南京攻略戦に参加して、いわゆる南京「虐殺」の当事者となり、戦後、激しい批判にさらされることになる。革命に共感を寄せ、日中提携を夢見た彼らが、結果としてなぜ泥沼の支那事変へと両国を導くことになったのか。われわれは、どこで道を誤ってしまったのか?「支那通」の思想と行動を通して、戦前の日中関係の深層に迫る。
目次
序章 陸軍支那通とは何か
第1章 陸軍支那通の誕生
第2章 中国軍閥と支那通
第3章 新支那通の登場
第4章 ナショナリズムの相剋
第5章 日中衝突
終章 支那通の功罪
著者等紹介
戸部良一[トベリョウイチ]
1948年宮城県生まれ。専門は日本政治外交史。帝京大学文学部史学科教授、国際日本文化研究センター名誉教授、防衛大学校名誉教授。京都大学法学部卒業後、同大学大学院博士課程単位取得退学。博士(法学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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勝浩1958
17
中国人に近代国家建設の能力が欠けているという認識は、支那通軍人に共通していた。そして、辛亥革命が支那通青年将校の血を湧かせることになるが、それは、アジア連帯あるいいは「東亜保全」的な理念が彼ら支那通軍人の間に脈々と流れていたことを示唆している。この時代の日本人は自分たちの力で、中国の建国を謀ったことが、泥沼の日中戦争の原因といえるのだろう。2016/10/01
さとうしん
10
佐々木到一ら支那通軍人の活動を通して戦前の日中関係の推移を追う。彼らは三国志のシミュレーションゲームのような感覚で謀略にのめり込んだ。彼らの口にする「中国は近代国家ではない」とか「中国は法治国ではない」なんて理屈は今でもよく言われるものであり、国民政府や蔣介石の力の軽視や憎しみは、そのまま現在の中国共産党政権に対する見方にスライドできるだろう。江藤淳は著者に、彼らには中国が他者であるという認識が欠けていたと言ったとのことだが、それより寧ろ中国の近代化を日本が指導すべきという思い上がりが問題ではないか。2016/08/19
CTC
9
本年8月のちくま学芸文庫新刊。単行本は99年講談社。防大名誉教授の著者による陸軍「支那通」=「支那屋」の研究。 先の15年戦争に於いて、大陸での各種工作に関与した彼ら〜松井石根、本庄繁、多田駿、河本大作、板垣征四郎、田中隆吉、根本博、影佐禎昭…と思い当たる名を並べても、なんとも捉えどころがないのだが…“支那屋”はどう養成され、変遷し、なぜ成功しなかったのか。 本書は、蒋介石と国民党の可能性にいち早く気づきながら、南京事件(37年)の当事者ともなった佐々木到一(陸大29期)にスポットを当てて、考察していく。2016/10/18
月をみるもの
9
台湾出張の往復で読了。陸軍支那通たちが中国(というか国民党に)抱いた期待と幻滅が、日本をどこへ導いたのか? 「かつて南京事件の際に領事館で暴民に襲われた根本博は、北支那方面軍司令官兼駐蒙軍司令官として終戦を迎えた。戦後、台湾に逃れた蒋介石の対中共作戦に協力し、金門島の防衛に貢献したという。」 という結びの文章を読んで、今回の土産はこれに決定。 http://img.bookmeter.com/photo/n/2515/1473587742316290.jpg2016/09/11
feodor
7
「支那通」と呼ばれる対中国情報担当をしていた将校たちの行動と、日本の中国政策を日中戦争へのプロセスの中で見ていく論考。旧来型の「支那通」青木宣純・坂西利八郎あたりは、初めて知ったが軍事顧問という形で中国へと接近し情報を得ている。そこと一線を劃す新「支那通」としての佐々木到一などが中心。軍閥との癒着ではなく、「東亜保全」を目指し、中国の「正しい」統一はやぶさかではない、と考える。中国に対しても、満州国に対してもある種の理想論を持ちつつ、現実との葛藤を抱え、そこを乗り越えられなかった部分があった。2016/08/31