内容説明
武田騎馬軍団を、織田・徳川の三千挺の鉄炮隊が三段撃ちで撃破。近年、その通説が揺らいでいる。両軍の鉄炮装備、武田騎馬衆の運用、兵農分離軍隊の実態など、合戦の諸問題を徹底検証。長篠合戦の真相に迫る話題作。
目次
長篠合戦をめぐる諸問題―プロローグ
長篠合戦をめぐる史料(信憑性を認められた史料;評価の揺れ動く史料)
織田・武田両氏の鉄炮装備(織田信長と鉄炮;武田氏と鉄炮)
武田氏の騎馬衆と両軍の陣城(戦国の騎馬と武田氏;陣城と馬防柵)
長篠合戦を戦った軍勢(戦国の軍隊と合戦;武田軍における高名と名誉)
長篠合戦像の空白は埋められるか―エピローグ
著者等紹介
平山優[ヒラヤマユウ]
1964年、東京都に生まれる。1989年、立教大学大学院文学研究科博士前期課程修了。現在、山梨県立中央高等学校教諭(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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鯖
19
天下無敵の武田騎馬軍団を織田徳川の三千の鉄砲隊が三段撃ちで撃破という通説を論じた本。海がなく堺や国友が遠い武田は鉄砲弾薬の数が足りず、訓練も不足していた。信長は兵を隠して少数にみせ、地理的優位があった武田を油断させ、当時から一般的だった馬防柵等を築いた長篠に誘い込んだ。三段撃ち自体は千挺ずつ交替で撃ったというより、弾込兵が狙撃兵に鉄砲を渡す分業制。長篠における武田の敗北は、信長が特に革新的だったわけではなく、情報戦に敗れ、火力兵力に劣る武田が殲滅された、そりゃそうなるわといった感じの妥当な結果だった。2021/07/18
ようはん
13
自分が今まで聞いていた戦国時代の一般的な通説やイメージは2010年代辺りから次々と覆されるようになっていったが、長篠の戦いのイメージもその一つ。勝敗を決したのは武田に対する織田の革新性というよりは領国の立地による銃弾の等の物資の確保量の差という視点は本書でも少し触れているが、太平洋戦争における日本対アメリカに通ずる物がある。2020/08/11
YONDA
11
織田・徳川軍の勝因は動員できる兵力の差、鉄砲と弓の数、まだんなく撃てるほどの鉄砲玉の物量であり、勝頼の敗因は敵軍の兵力を正確に認識できず、鳶ノ巣砦攻撃に向かった敵別動隊を把握できなかった諜報活動の失敗であった。勝頼敗戦の主な原因とされていた無謀な突撃は決して無謀ではなく、当時の戦では当たり前の戦法であったとは目から鱗。そして重臣の山県・内藤・馬場・真田兄弟の戦死は突撃が原因ではなく、退却時に踏みとどまったからだとは知らなかった。「歴史学の成果はすべて仮説である」、だから歴史は面白いんですよね。2016/04/13
futabakouji2
9
革新的な織田と旧勢力の武田という見方を見直した本。織田軍も武田軍も鉄砲の編成に関しては一緒。在地の勢力から鉄砲の得意な人達をそれぞれの家臣団から徴兵した兵たちを再編成する。織田は鉄砲が広く使用されていて、弾丸、玉薬を買える物流が栄えている畿内を支配地だった。武田(北条含む東の勢力)は弾丸、玉薬を購入できるだけの場所、経済力がない。火縄銃があっても撃てないので訓練もできない。経済的に豊かな場所を支配した織田軍の物量で負けたしまったことが敗因かもしれない。2019/12/20
電羊齋
9
既知の史料を丹念に読み直し、かつ文書史料、出土した銃弾など多様な史料に当たっている。そして、これまでの固定観念とは異なり、織田・徳川軍と武田軍の鉄砲装備、軍役、編成、鉄砲戦術、騎馬戦術等は同質的であったことを指摘。武田軍の鉄砲運用の限界は結局のところ地理的条件(交易)の差、領国の大きさの差としている。騎馬隊、野戦築城(陣城)等の論点もよく整理した上で紹介されている。また、矢玉が激しく飛び交う不利な状況でもひるまず戦うことを戦功とする武田家の戦功・名誉意識が損害を拡大したのではないかという仮説は興味深い。2016/07/18