出版社内容情報
【内容紹介】
公害という名のおそるべき犯罪、“人間が人間に加えた汚辱”、水俣病。昭和28年1号患者発生来10余年、水俣に育った著者が患者と添寝せんばかりに水俣言葉で、その叫びを、悲しみ怒りを自らの痛みとし書き綴った《わがうちなる水俣病》。凄惨な異相の中に極限状況を超えて光芒を放つ人間の美しさがきらめく。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ゆか
37
100分で名著を見て、読んでみたいと思いました。それまでこの本の存在をしりませんでした。水俣病は、社会の資料集でみた程度で特に、知ろうともしませんでした。そんな自分が恥ずかしいです。聞きがきのようですが、聞きがきではないとのこと。完全版も、あるようなのでそちらも読んでみたいです。2016/09/25
yumiha
32
再読。ずいぶん前の初読の時は、「公害」という観点で読み進めたと思う。今回は、患者とその家族の思いや漁民の暮らしに心を持って行かれた。丈夫だった体が蝕まれ衰えていく様には、胸が塞がれる。江津野の爺さんが、念仏を唱えながら水俣病の孫を「うっちょって」自分だけ極楽には行けないという語りも辛い。ぶえん(無塩?)の刺身を「1升ぐらいは朝晩にナメんと漁師がたなかばい」や沖の潮で炊いたご飯など、ひたすら驚く。そんな暮らしを侵した水俣病。チッソという会社はもちろん議員も労働組合もマスコミも市民運動も、どこかずれている。2019/09/03
しょうじ@創作「熾火」執筆中。
29
【1回目】全体を俯瞰するために、ざあっと目を通した。時折、Eテレ「100分de名著」での、若松英輔さんや伊集院光さんの発言や表情が思い出された。詳しい感想は、2回・3回と読まないと書けそうにない。2018/03/08
しょうじ@創作「熾火」執筆中。
27
【2巡目】池澤夏樹か赤坂真理らが全3部をまとめたものもあるが、この文庫は第1部のみを収める。ぼくの「読み」は、先に若松英輔さんのEテレ「100分de名著」を見、そのテキストを読んだ者としては、その影響からは免れていないと思う。ただただ、息をのむ。この文章は、告発のためのものではなさそうだ。人が人であることの「意味」を、病を得、言葉を失った者に代わって書き綴ったのではないかと思う。決してルポやノンフィクションといったジャンルに「分類」されるものではない。これは、深い「祈り」の書であると、ぼくも思う。2018/04/03
Gotoran
24
水俣に育ち暮していた、主婦かつ、詩人の著者が、不知火海に排出された汚染物質(有機水銀)により、自然や人間が破壊し尽くされていく悲劇を、虐げられた水俣病患者の苦しみと魂の叫びとして、水俣の言葉で、痛切に、生々しく表現描写していく。まさに、文明病の水俣病の鎮魂の書。九州で生まれ育った私は、水俣の言葉が殆ど理解出来たこともあり、より痛切に伝わってきた。襟を正して真摯に読ませて頂いた。後世に読み継いで行くべき作品と感じる。また、本書から、どうしても福島第一原発事故の放射性物質汚染の危惧へと思いが及んでしまった。2013/01/02