内容説明
一千ヵ所にも及ぶ年代矛盾。取り違えられた王侯、隠蔽された「史実」―。司馬遷らによる編纂過程で、いったい何が起きていたのか。そして『史記』自体の「虚像」はどのようにつくられたのか。膨大な年代矛盾の謎をことごとく解明し、中国古代の帝・王・宰相の「正統観」を明らかにした画期的論考。これで春秋戦国時代の「常識」は塗り替えられる。
目次
第1章 項羽・劉邦の「虚」と「実」(「唯一」の暦と「唯一」の正統;義帝殺害と漢天下統一の年代;「越」の正統と天下観;『史記』の「形」と漢の正統;封印された越の正統)
第2章 秦始皇帝の「虚」と「実」(秦天下統一の道筋;埋もれた式典;改元しない始皇帝;文字・貨幣の統一はあったか)
第3章 新しい春秋戦国時代像(二つの称元法と複数の暦の解明;失われた『竹書紀年』の復元;封君紀年の発見;誤れる蘇秦像)
終章 『史記』をどう読むか(『史記』年代整理作業の場;「おおやけ」の書『史記』;『史記』の材料と「おおやけ」;『史記』の「実」を読む)
著者等紹介
平勢隆郎[ヒラセタカオ]
1954年茨城県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学大学院人文科学研究科修士課程修了。専攻は東洋史。現在、東京大学教授(東洋文化研究所)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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佐藤丈宗
2
中国古代史の基礎史料である『史記』には古くから多くの年代矛盾が指摘されてきた。個々の事案についての年代考証はされてきたが、全体を通しての考証はほとんどされてこなかった。本書は体系的な考証を旨として、『史記』全体の年代矛盾の解消に挑戦する。暦法や称元(改元)法をベースにしているため派手さはないが、その考証過程は、まるで推理小説のように面白い。そして、年代考証の中から見えてくる『史記』の「正統」観念。誠実な歴史書である。2017/03/25
ジュンジュン
1
なんとも魅力的な仮説!各支配者の正統観に基づく独自の暦作成という、なんとも説得力抜群のやり方で、史記の年代矛盾を解きほぐすとは!久しぶりに知的興奮を味わった。2015/12/24
飛燕
1
「我々の言語に埋め込まれている或る挿し画に事実の方が合わねばならぬという考え」(ウィトゲンシュタイン『青色本』)。史記は正統の形式を創出して、それに事実を合わせた、だからそれを取り払う必要があるという主旨。称元法、暦などを手がかりに、複数の正統が混在したまま誤認識されたことを浮き彫りにしている。2013/06/09
TSUBAKI Shin-ya
1
なぜ矛盾した年代記述が残っているのかを、暦を鍵として丹念に解き明かし、そこから歴史書の「正統」観を論じた本。謎が解かれていく様はまるでできの良い推理小説を読んでいるかのよう。とても面白かった。2011/10/29
の
1
年代矛盾や一人の人物についての疑問をひたすら読み解いていく本。細か過ぎて少し冗長にも感じましたが、どんどん取り変わっていく中国王朝のそれぞれの文化が、一つの書にまとめられていることを考えれば、それでも内容を削ったくらいでしょう。2010/04/26