法政大学の総長であった当時の田中優子氏の危機感は戦慄をもって伝わってきた。それは、[あとがき]にも明言してある。＜最初に崖から飛び降りる人びと、それが日本人である。崖の下で生きていかれるのか、少しでもうるわしい日々は用意できるのか？現状の持続は不可能であっても、せめてレジリエント（回復可能）な日本にするための、新しい知性を生み出すことができるのか？それは日本の喫緊の問題なのである。＞
この意味するところを噛みしめれば、相当なものである。そして、それを受ける相手が松岡正剛氏であることが絶妙でもあるのだ。彼も相当な危機感を抱いているはずだが―だからこそ、「イシス編集学校」は既存の学校では間に合わないことどもを次々と実践し、法政大学総長をして＜今後の教育モデルとなるであろう＞と言わしめている―その憂いを敢えて表面には微塵も出さない。飄々と受けて、朗々と放り投げる。ここで彼は、京都人というより生粋の江戸っ子のような洒脱な調子で、普段はあまり語らない艶っぽい話さえ出してくる。二人の楽しくって仕様がないムードが直に伝わってくるのだ。
全篇いたるところに付箋をつけまくったが、殊に最終8の「日本の来し方・行く末」の章は付箋が間に合わなくなるほどスゴイ。殊に「二人の「奥」にある日本」で、お互いのルーツ―京都の呉服屋の息子に、また、横浜の西洋かぶれの長屋住まいの娘に遡って点検していくあたりから、濃度は格段に加速しはじめ、「何を読んでいたか」から最終の「日本に仕掛けたい問答」へいたるころには、「やつしの日本」「もどきの日本」という＜中締め＞の光景がパッと見えてくる。これは後継へのバトンである。と同時に、自分たちのギリギリの願いでもあろう。この例外的な問答から見えてくるものは種々雑多パノラマのような、また祈りのような切なくも愛しくなつかしい日本の姿である。
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